映画『ザ・ブック・オブ・ライフ』は、愛や死、贖罪をテーマにストーリーを展開しながら、人間の現世と来世を壮大なスケールで描いた作品だ。メキシコの祝日、ディア・デ・ロス・ムエルトス(死者の日)を題材に、監督を務めた Jorge Gutierrez 氏は、 Reel FX Animation studios とともに、この祝日特有の霊的象徴を細部に至るまで表現し、鮮やかな色彩に溢れた素晴らしい映像を作り上げた。

本編は木製の人形たちによって繰り広げられるが、全編にわたり人形の手作り感を維持する必要があったため、 Reel FX では、中米の職人によって彫られた実物の人形を参考に作業を進めた。提案された複雑なショットの処理が可能なレンダリングパイプラインを構築しつつ、求められるルックを実現するために、適切なテクノロジを採用することが不可欠であった。

「この映画に特有の複雑なデザインにおけるすべてのディテールを表現するためには、レイトレーシングレンダラを選択すべきであることは明白でした。」 Reel FX の技術チームのトップである Ross Moshell 氏は説明する。

厳しいテストを繰り返した結果、 Houdini の Mantra レンダラが採用された。 Mantra レンダラは、カスタマイズ性を備えた Alembic ファイル形式をビルトインサポートし、パイプラインの限界を押し上げることが可能な柔軟なツールセットを備えていたからだ。

 

Alembic の優位性

Alembic ファイルフォーマットにより、Reel FX のパイプラインではさまざまなツール間のデータの受け渡しがシームレスに行えるようになった。これにより、ディスクへのファイルの書き込みを大幅に削減することができた。Alembicはアニメーションされたジオメトリを非常に効率的に処理することができるので、単一の形状フォーマットによりパイプラインのフロントエンドからバックエンドまでデータ転送が容易に行えるようになった。

「このプロジェクトに Houdini / Mantra を採用した大きな要因は、シームレスなデータ交換により、多くのバックエンド部門を単一パッケージ上で連携させることができる、その凝集性にありました。」 Moshell 氏は説明する。「異なるパッケージ間での作業、特にライティングとビジュアルエフェクト間で発生しがちな、データ統合に纏わる典型的な問題の多くを回避することができました。」.

さらに、 Mantra が Alembic をネイティブサポートしていることにより、トポロジが変化するジオメトリ、 NURBS サーフェス、ポイント単位の速度、可視性のアニメーションなどを含むジオメトリアセットやカメラをプロシージャルに読み込むことができ、生産性も大幅に向上した。セットによっては、アセット数が万単位、個々の形状数が百万単位にまで及んだが、問題なく処理できた。

また Reel FX では、ステレオカメラのキャッシュも Alembic 形式で保存した。過去のプロジェクトでは、多くの形状フォーマットをパイプライン全体でサポートする必要があったが、 Alembic により、ツール選択における柔軟性を保ちながら、ファイル形式の一元化を実現することができた。

 

カスタマイズ

Houdini はその内部を操作して、アーティストのニーズに応えるカスタマイズを行うことが可能だ。 Reel FX はプロジェクトを通し、この機能を利用して多くの重要なカスタマイズを実行し、ワークフローの加速化に成功した。

まず、 C++ と Python API を使い、 Mantra と SOHO 経由の Houdini IFD 出力のカスタマイズを行った。こうした API により、レンダリングプロセスの微調整と最適化を入念に行い、ライティングチームの負担を軽減した。

File System Helper クラスを使って、クロスプラットフォームのパスの解決をサポートする Houdini と Mantra 用の単一プラグインを作成したことにより、 Windows ユーザはシーンに追加の処理を施さなくても、 Linux レンダーファームにレンダリングジョブを直接投入できるようになった。

SOHO では、アーカイブされたマテリアルの IFD ファイルをレンダー IFD に直接ソースするフックを活用した。その結果、複雑なシェーダネットワークをライティングシーンから除外し、必要な時にだけ読み込むことが可能になった。またユーザフックにより、目のジオメトリレンダリングのカスタマイズやグローバルな反射マップの定義、テクスチャのアニメーション、オンデマンドのシンプルなシェーダの作成 (AOV 、オクルージョン、シャドウキャッチャーなど)を行った。

さらに Mantra の Python フィルタ API を利用して、レンダリング時のビヘイビアもカスタマイズされた。マルチカメラ IFD ファイルから単一カメラのレンダリングを実行したり、エラーレポートを一元管理したりといったサポートの追加がその例だ。

 

VFX のレンダリング

Mantra をビジュアルエフェクトとアニメーションジオメトリの両方のレンダリングに使用したことは、特に主要な各所において良い結果を得ることにつながった。エフェクトアーティストは、ライティングやディスプレイスメント、異なるレンダリングエンジンからプロシージャルに生成されたファーエレメントなどの調整にエネルギーを費やすことなく、優れたエフェクトの作成に集中して取り組むことができた。

「エフェクトアセットのライティングへのパブリッシュは、非常に容易に実行できました。シェーダやレンダリング設定の転送は堅牢性を維持したまま、高速かつシームレスに行えました。」 Moshell 氏は言う。

Mantra をライティングに使用することで、シーン内の他のアセットと同一のライトで、同じ方向からエフェクトを照射することができ、プロダクションの全過程を通し非常にシームレスな統合が実現した。ホールドアウトは必要なく、モーションブラーは当然ながら完璧に調和した。

「映画の中の大規模な破壊エフェクトでは、ライティングチームが使用するシェーダやディスプレイスメントをエフェクトチームも使用できるようにしたことで、ルックに関して共通認識を持ちながら同一のワークスペース内で作業を進めることができ、2つのチーム間で当て推量的に作業を進めるようなことはありませんでした。」 Moshell 氏は言う。

「Houdini で実行できる VEX シェーディング言語により、 Houdini Digital Asset ( HDA )を作成し、実際のジオメトリ上に破砕エフェクトで使用するためのディスプレイスメントを再生成しました。またこの HDA により、ルックアーティストはルック・デブのパブリッシュプロセスで、ディスプレイスメントバウンドを正確に算出することができました。」.

 

Reel FX と Side Effects のパートナーシップ

Side Effects はお客様とともに作業を行い、そのクリエイティブな目的を達成すべくサポートを行っている。映画『ザ・ブック・オブ・ライフ』では、 Reel FX と Side Effects がより密接に連携し、作品全体のライティングを Mantra で行うことにより、その新たな可能性を拓いた。

「Side Effects との密接な連携により、アーティストのフィードバックをベースにしたツール開発や、プロダクションの全過程を通した直感的なワークフローを実現することができました。」 Moshell 氏は言う。「Side Effects は、パートナーシッププロセスにおける役割を約束通り果たしてくれました。」

Side Effects のソフトウェア シニア マスマティシャンであり Mantra の生みの親である Mark Elendt は、プロダクションの全過程を通して Reel FX と作業を共にしながら、その目的を満たすうえで重要な役割を果たした。

「複雑なデータを用いて Mantra の試用を行う度に、多くの発見があります。」 Elendt は言う。「Reel FX との密接な連携から、制作現場が日々直面する問題の多くについて知る機会が与えられ、その結果、 Mantra を業界全体にとってより良いレンダラへと強化することができたのです。」

 

少年時代の夢の実現

ディア・デ・ロス・ムエルトス(死者の日)の躍動感溢れる世界観の映画化という難題を、 Reel FX は上手くクリアした。オリジナルのアートワークや初期のコンセプト画は迫力満点で、ディレクタの Jorge Gutierrez 氏の期待に応えることができたのは、チームにとって重要な成果であった。

「オリジナルのアートワークを映画の最終フレームと並べて比較しながら、 Gutierrez 氏は、彼が思い描いていたものより出来上がった作品のほうが素晴らしいと、よく言ったものです。アーティストにとって、非常に喜ばしく感銘を受けました。」 Moshell 氏は言う。「最終的に私たちは、 Gutierrez 氏のビジョンをもとに素晴らしい映画を完成させ、芸術的な成果を残すことができました。この作品を私たちは心から誇りに思っています。」