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“親愛なる隣人スパイダーマン”のシネマティックアドベンチャーと言えば、その画期的なVFXワークでよく知られるところだ。映画『アメイジング・スパイダーマン 2』では、ソニー・ピクチャーズ・イメージワークス (SPI) が、悪役であるエレクトロの登場させ、その超大型VFXにより観客を大いに魅了した。エレクトロを実現させ、破壊や水、爆発などのさまざまなVFXショットの作成において、Houdiniは重要な役割を果たした。

エレクトロのルックは3つの主要な要素から構成されている。一つ目は“Eスキン”と呼ばれる皮膚で、電流のような血管が皮膚下で脈打っている。エレクトロはその特殊能力として“Eブラスト”という拳の内側で蓄電され放たれる稲妻を打ち出す。そして最後に、高電圧を操るキャラクタが周囲に与えるインパクトについても描写しなければならなかった。

エレクトロのEスキン

エレクトロのEスキンのルックを作成するために、イメージワークスのVFXアーティスト、Dan La Chapelle (ダン・ラ・シャペル) 氏はHoudiniを使い、エレクトロの体内で複雑に分岐し、また連結する神経回路を構築した。これにより、脈動するエネルギー帯がエレクトロのシナプスを流れるアニメーションが実現できた。

Houdiniを使ってこうしたシナプスの流れのアニメーションを作成したことで、アーティストは多くの重複するパターンを作ることができ、そうしたパターンが異なるタイミングで、最終的にショットの合成を行うコンポジターによってさまざまな形に合成された。

 

エレクトロが通常の状態にある時は特定のパターンを組み合わせ、怒ったり攻撃的になったりするにつれ、より暴力的で荒々しい脈動を浮かび上がらせた。このようにして血管を流れる電流のパターンを分けることにより、エレクトロのニューロンをより詳細に制御でき、怒りが増すのに伴い、わずかに赤みを増していく様子を表現することができた。

エレクトロのEブラスト

映画内のタイムズ・スクエアや発電所でのシーケンスで見て取れるように、エレクトロのEブラストの生成にHoudiniは不可欠なツールであった。

イメージワークスのVFXアーティストであるSpencer Lueders (スペンサー・リューデルス) 氏とCosku Turhan (コスク・ターハン) 氏は、星雲のような稲妻の複雑なルックの生成のために、さまざまなレイヤーを構築した。つまり、ネスト化した"for each" ループ内にHoudiniのVOPネットワークを組み合わせて、分岐アークを生成し、ループから数個のレイヤーが発生するシステムだ。

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稲妻の閃光などの合成エフェクトは、ボリューメトリックなリボン、パーティクル (POP) シミュレーションによる素粒子エネルギー、そしてボリュームを元にした「ちり」を、クラックルアトリビュートのアニメーションと組み合わせ、生成された。Houdiniで全ての設定をプロシージャルに行ったため、開発過程でエフェクトのルックに関して迅速に試行錯誤と変更を繰り返し加えることができた。

エレクトロと周囲環境

EスキンやEボルトの他に、エレクトロの破壊的エネルギーによる周囲の環境に対する影響についても定義する必要があった。カスタムのサーフェスソルバとパーティクルシミュレーションを作成し、エレクトロの周囲に広がる電流網や、近くにあるオブジェクトからエレクトロの皮膚表面にまで広がるテスラアークなどの付加的エレメントを追加した。

Eブラストの主要エフェクトに加え、イメージワークスのVFXアーティスト、Patrick Witting (パトリック・ウィッティング) 氏とDimitre Berberov (ディミトレ・ベルベローヴ) 氏は、”プリチャージ”エフェクトと呼ばれる、ブラストを放つ前にエレクトロの手を包み込む一種の超電荷のような暴力的エネルギーエフェクトを開発した。これはその後、プリチャージの静電気バージョンである、イメージワークスが言うところの“Eピックル”に統合された。このエフェクトを作成するために、ジオメトリソルバをカスタマイズし、エレクトロの手を同心らせん状に包み込む電気アークの表現を実現した。

エレクトロのEゴースト エフェクト

この映画の中でもっとも見事なエフェクトのひとつが、イメージワークスが“Eゴースト”と呼ぶエフェクトだ。これは、エレクトロが霧状の微粒子に姿を変え、ショット内をほんの数秒のうちに遠く離れた場所まで電光石化のごとく移動してしまうというものだ。

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Houdiniは、イメージワークスのFXテクニカルディレクタであるChris Messineo (クリス・メスィネオ) 氏がこのエフェクトを開発する上でなくてはならない存在であった。彼は、エレクトロを高密度のポイントクラウドに変換し、その周りにノイズを追加し、エレクトロの動きの軌道カーブに沿って分散させた。Messineo (メスィネオ) 氏は、Houdiniがこうした動作の解析や補間、またキャラクタのテクスチャやルック情報の引き渡しにも非常に適していると感じた。基本的に、エレクトロは、ポイントクラウドの状態でも、霧状のEゴースト状態に変貌する以前のテクスチャとライティング状態と全く同じように見えなければならなかった。

この方法によって、任意のポイントクラウドを操作してエレクトロに思いのままに手を加えさまざまな形に分解した後で、元の形に再構築することができた。

エレクトロの非実体化

映画では、エレクトロが“非実体化”したり“再実体化”したりするシーンがある。こうした表現のために、イメージワークスのFXアニメーション リーダーを務めるKlaus Seitschek (クラウス・セイチェク) 氏はカスタムネットワークを設定し、エレクトロの皮膚や血管、白っぽく発光した皮膚内部のレイヤーをプロシージャルに操作した。次いで、こうしたすべてのレイヤーをフローベクトルフィールドから操作して、エレクトロをコンセントや電気の主管に瞬間移動させ、同様に、場所から場所へと移動する度にその姿を変化させることができるようになった。さらに、アルゴリズム的ワークフローにより、実写エフェクトとエレクトロが周囲に与えるインパクトとを調和させ、エレクトロが決戦の地に到着した際に発電所を包む稲妻アークのような表現を実現した。

追加のVFXワーク

エレクトロに関するあらゆるVFXワークだけではなく、この映画ではHoudiniを使い、さまざまなVFXを処理した。イメージワークスのVFXリーダーであるCharles-Felix Chabert (チャールズ・フェリックス・シャベール) 氏は破壊チームを率いて、タイムズ・スクエアと発電所の大規模な破壊シーケンスから、エレクトロがオズコープの実験室を潰す小規模なものまでの全てを作成した。

破壊エフェクト作成におけるイメージワークスの主要ツールは、Houdiniのダイナミクスレベルにカスタムで実装したDMM だが、Houdiniのジオメトリレベルで実装されたBulletやPhysX、ODEも使用した。Houdiniは、数多くの特殊な補助的ツールをカスタマイズし、破壊手法に改良を加えることができ、こうした作業に理想的なフレームワークだ。行ったことは列記するには多すぎるが、共有エッジの判定からシミュレーションソルバーの後処理によるクリーンアップやエラーの修復までが実行できるのは極めて重要であった。

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映画全編を通して、炎、爆発、煙、埃、破片、催涙ガス、衝撃、きのこ雲、霧などのエフェクトも数多く生成された。ほとんどの場合、Pyro FXソルバによって作成された煙や炎のバリエーションを使い、狙い通りの見た目を得ることができた。

Houdiniのダイナミクスツールのオープン性により、テクニカルアーティストによってカスタムのセットアップが作成され、プロダクション独自の多くの課題への対処が図られた。HoudiniのOpen VDBツールは、とりわけ流体シミュレーションのデータ構築における高度な柔軟性と最適化を実現し、強力なVOPネットワーク性能により、シミュレーションのビヘイビアを詳細にわたって制御することが可能になった。

処理しなければならないVFXが膨大な量であったため、シェルフツールそのままのネットワークから、マイクロソルバで一から完全に構築したネットワーク、またその両方を組み合わせたものまで、すべてを利用して作業が行われた。Houdiniのup-res (高解像度) テクノロジ、リタイミングツール、レストフィールドオプションは、シミュレーション作業において、効率的かつ柔軟なやり方で、求められるレベルのディテールを表現する上で不可欠であった。

水がメインのVFXでは、Houdiniの流体ソルバが使われた。これには、FLIPセットアップ内部のSOPソルバを用いたカスタムドリップによる、皮膚に付着しているわずかな水滴のシミュレーションから、貯水槽や消防ホース、消火栓の爆発などの規模の大きなシミュレーションなど多岐にわたった。

Houdiniを用いたショット合成

Houdiniが、ショットの仮合成などのプリプロダクション段階でも有効なツールであるということも新たに発見した。

『アメイジング・スパイダーマン 2』では、Houdiniを使って、同一エレメントのバリエーションを数多く作成し、エフェクトシーンに迅速にエレメントを追加することができた。例えば発電所のシーケンスでは、炎のシミュレーションを膨大に作成し、燃えるがれき類の表現に使用した。Houdiniは完全にプロシージャルなツールであるため、火種として異なるがれきを迅速に取り替えることができ、同じ特性を持ちながら多様性を備えたリアルな表現が行えた。

さらにエフェクトアーティストは、大量のベイク前のシミュレーションエレメントを、ショットのレイアウトやライティング担当のアーティストに引き渡し、絶えず新たなシミュレーションを走らせなくても自由にエレメントを移動させ、合成を変更できるようにした。

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「Houdiniでこうしたことが実現できたのは、ベースとなる一つのシミュレーションのセットアップから、極めて多様なライブラリを容易に構築することができるからです。」ソニー・ピクチャーズ・イメージワークスのFXアニメーション スーパーバイザー、Joseph Pepper (ジョセフ・ペッパー) 氏は言う。

「その上、柔軟性と効率性をもたらし、変更を加える際に関連するすべての手順を手作業で再生成する必要がないHoudiniの特質は、あらゆるクリエイティブな試みにおいて非常に大きな助けになりました。例えば、エレクトロの電流網や、アークや火花のエフェクト等の特定のエレメントは、迅速に試行錯誤と改良を繰り返すことができたからこそ、そういったエレメントがより多く映画の中でご覧いただけるようになったのです。こうしたエレメントの作成が進むにつれ、ディレクタやVFXスーパーバイザーは、もともと予定になかったような場所にもこうしたエレメントを追加したいと言い出しました。つまり、映画内のすべてのFXのクリエイティブな構成を有機的なプロセスに保つことができるので、クリエイティブにうまく行くか否かということに臨機応変に調整できたのです。」

Houdiniによりソニー・ピクチャーズ・イメージワークスは、Eスキンを持ち、稲妻を放ち、環境のエフェクトと相関し合うエレクトロを、精巧なビジュアルに作り上げた。同時にHoudiniは、破壊、煙、炎、水といった、この映画の根幹を成すVFXワークにおいて重要な役割を果たし、スパイダーマン最新作を世に送り出すアーティストたちを後押しした。